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Around 40 に刺さる映画『歩いても 歩いても』

今から10年以上前、待ち合わせの友人から急な仕事でかなり遅れる旨の連絡を受けた僕は、突然の手持無沙汰になす術もなく調布の街をブラブラしていました。何か時間を潰せるものはないかと調布駅の周辺を大きく1周散策したところで、見つかるのはゲームセンターか喫茶店くらいでした。もう帰ろうかなと友人に連絡をしようとしていたところ、当時まだ取り壊されてなかったパルコ調布キネマを見つけました。もし時間を潰す方法が他にもあったのなら、こんな地味なスチル写真の映画をわざわざみることは無かったかもしれないです。

 

出演者は阿部寛さん、樹木希林さん、原田芳雄さん、夏川結衣さんとかなり豪華です。監督も是枝裕和さんと非の打ちどころがなさそうな映画なのですが、なぜか知名度がそこまで高くありません。また聞いたことはあるという人でも実際にこの作品を見たことがあるという人は少なく、それがとても残念です。そこで、本日はこの(実際に隠れているのかは分からないですが)自分調査ではかなり隠れている『歩いても 歩いても』を紹介します。

 

ストーリーはお盆に横山良多という40歳前後の冴えない中年男が実家に帰り、そこで1泊するというだけの話です。良多は失業中であること、10年以上前に溺れている子どもを助けるために亡くなった立派な長男と比較されること、さらに小学生の子どもがいる女性と結婚し、それを母親があまり良く思っていないことなどから帰省することをかなり煩わしく感じています。なんとか理由をつけて実家に帰ることを断っている姿はとても自分と重なります。また、良多が長男にお線香をあげにやって来た「当時溺れていた少年」を優しく庇うシーンでは、優しすぎる人は出世しないという世の中のルールも描かれているような気がしました。

 

実家に帰ると妹が先に子どもたちをつれて帰省しています。妹は夫と子ども2人の4人家族で、この2人の子どもは血のつながった祖父母の家で叫んだり走り回ったりとても活発にはしゃいでいます。しかし、その一方で良多の妻の連れ子である「あつし」はこの雰囲気に上手く溶け込めず静かに座っています。この子どもたちを対比する描写も、大人たちが「あつし君はとても落ち着いていてしっかりしている」などと言う描写も本当にリアルです。

 

日が沈むころ、妹は「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」といって夫と子どもたちに帰る支度をするよう促します。せっかくのお盆なのだから一泊すればよいのだけれど、あえて「帰る」というところも人間が深く描かれているなと感心します。結局実家よりも我が家の方が居心地が良くなっているということですね。

 

あまり書くとネタばれになってしまうのでこれくらいにしますが、この映画はこのように劇的なことは何一つ起こりません。本当に何一つ起こらないまま淡々と上記のような人間模様が延々と描かれていくだけです。しかし、その一つ一つのシーンに分かる!!と共感できる部分がたくさん散りばめられています。38歳になった今、この良多と年齢が近くなった分だけこの共感できる部分はさらに多くなってきました。

 

最後に良多がポロっと人生哲学めいたことを言って話は終わっていきますが、正直泣けます。本当に何も起こらない映画で上映時間も2時間近くありますが、それでももっと見ていたいと思える数少ない映画の中の1つです。

 

是枝監督、阿部寛さん、樹木希林さんの映画はこの『歩いても 歩いても』の他に『海よりもまだ深く』という作品があります。これもどこにでもあるような家族が描かれた話です。もし、この『歩いても 歩いても』が面白いと感じるのであればこれもやはりお勧めです。

 

この冴えない40代の男を演じたら阿部寛さんの右に出る者はいないと思えるほど演技が上手ですが、きっと阿部寛さん自身が同じようなことを経験されているからなのかもしれませんね。

 

阿部寛さんといったら『結婚できない男』『ドラゴン桜』『新参者』など多くのヒット作がありますが、僕はこの『歩いても 歩いても』が一番好きです。ぜひ一度見てみて下さい。

 

では、今日はここまで!!

またね!!